Everyday Birthday: 新訳アリとキリギリス

2016年7月28日木曜日

新訳アリとキリギリス

暑い夏のさなか、アリたちは汗水たらしながら、せっせと働いておりました。

「やあ、アリさん。お暑い中、大変ですね」
「そうゆうキリギリスさんも、少しは働いたらどうですか」

「そうですねぇ。でも私にはやりたい事がありましてね」
「やりたいことって、あれでしょ?なんかギーギーうるさいヤツ」

「ええ、バイオリンっていうんですけど」
「バイオ?あれでなんかキレイになるんですか?」
「いやいや、洗剤じゃないんですから」
「じゃあ、なんの役に立つんです?」
「そういわれると、こまっちゃうんですがね」
「働きもせず遊んでばかりで、いい気なもんだ。あとで苦労しますよ」

アリの言葉に肩身の狭い想いを感じながら、
キリギリスは夏の間、ずっとバイオリンの練習をしておりました。

やがて冬になり、寒くて凍えそうな日が続きます。
アリたちは家にこもり、たくわえた食料を食べて暮らしていました。

そこへ、だれかが訪ねてきました。
トン トン トン トン
「すいません」

「だれだい、こんな雪の中にくるのは」
「どうも、アリさん。キリギリスです」
「おや、キリギリスさん。どうかしたんですか」
「ええ。ちょっと聞いてもらいたいことがございまして」
「まあ、ちょうどたいくつしてた所なんだ。どうぞお入り」
「ありがとうございます」

「それで、なにか面白い話でもあるのかい?」
「面白いかどうかわかりませんが、じつは一曲演奏させてもらいたいと思いまして」
「え!?あのギーギーを?ここでやろうっていうんですか?なんの冗談?」
「いえいえ、冗談じゃないんです。
 ずっと練習を重ねてきましたんで、少しはマシになってると思うんですよ」

「それじゃあ、たいくつしのぎに聞かせてもらおうじゃないか」
「ありがとうございます」

さっそくキリギリスさん、バイオリンを肩にのせると、
からだをゆらしながら、ヴィバルディの『四季』を奏でました。

「いやー、たいしたもんだ。いいこころもちになったよ」
「ありがとうございます。代わりといってはなんですが、食事をごちそうになってもよろしいですか」
「どうぞ、どうぞ。食べてって」
「ありがとうございます。しばらくなにも食べてなかったもので」
「そうだ!今度ともだちの結婚式があるんだが、また演奏してもらおうかな」
「よろこんで、演奏させていただきます」

さあ、この話がアリからアリへと連なって、目の回るような忙しさ。

「キリギリスさん、近頃方々飛び回っているそうじゃないか」
「ええ、おかげさまで。もう、キリギリ(きりきり)舞いです」

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